暖かい日差しがを照らす昼下がりの街。
鼻歌を奏でながら買い物をしていると、賑わうあちらこちらで話をしている人たちの姿がみれる。


丁度用事があった店にも井戸端会議をしている人達が居た。

はその入り口付近にいる人によけて下さいという意味合も含め笑顔で軽く会釈しその場所を通り縋ろうとした。


それが事の発端だった―






patience








「無理よ、無理!!」






廊下を歩いていると聞えてきた声。
これがの声で無ければその部屋に入る事は無かったと思う。


少しだけ遠慮がちにノックをし入った部屋には怪訝そうに眉を顰めるバルフレアと
腕を組んでそっぽを向いたの姿。

滅多に怒った姿を見せない彼女のその態度に聊か心配になったバッシュ。


「どうかしたのか?」

その声にフゥと息を漏らしバルフレアは肩を竦めて答える。

「街で口論してた」

「口論??」

「ああ」

「それで、一体何をしたんだ?」

「さぁな」

「さぁ。。、とは?バルフレアが当事者では」

「おいおい、勝手に俺を悪者にするな」

「だったら誰が―・・・?!」



ここには二人しか居ないのだ。バルフレアでなければ、それは―


だよ、


未だ別の方向を向いている人物にバルフレアは目線を送る。
いつもより若干大きな声でバッシュが入ってくる前の会話の続きを喋る。

「口論なんて人聞きが悪いわ。それに別に事を荒立てた訳でもないじゃない」

「事態が悪化させるような事はしないのは分かるさ。でもお前」

「もういいじゃない、別に。バルフレアの饒舌で事は丸く収まったんだから」

「あの時俺が居合わせなかったら何時までやってたつもりだよ」

「私だってあれくらいで止めるつもりだったわ」

「ったく。お前ももっと寛大になれよ。あれくらい気にする事じゃねーだろ」

「な、、、、」

「あいつらは何も知らないんだから」

「だからさっきも言ったでしょ!!無理だってッ!!!最初から出来るならしてるわ」

「逆ギレするなよ」

「してない。話は終わり!じゃあね!!」

「おい!」

「心配しなくても、もうしないわよ」







バタンと強く音を立てて閉められた扉を見つめる残された二人。


気になって入ってはみたがは一度たりともバッシュの方向を見ることはなかった。
むしろ意識的に視界に入れることを避けていたように思える。


「・・・・・・・」

「・・・・・・バ」

「ストップ、俺に聞くな。真相はしか分からないだろ」

「・・・・確かにそうだな」


ことある事に巻き込まれるバルフレアに謝罪をして部屋を後にした。

あの様子だともう一度街に行く事はないだろう。
きっと自室に居るに違いないと思い足を進めていった。

しかし、一体彼女はどうしてそこまでに至ったのだろうか。
いざこざを嫌うものは自分が嫌でも自我を抑えたり、後のことを考えて相手と対立することはしない。
まして見知らぬ人間に対して何かを言わなければならない状況になったのは何故なのか。





考えてもやはり真意は分からないな、と扉の前に立ちノックをするため手を握った。







コンコン。




返事が無い。





もう一度叩いて今度は名前を呼んてみた。




、、、、、バッシュだ。居ないのか?」

やはり返事は無い。だが人が居る感じはする。
諦めずにノックをし名前を呼べば、目の前の扉が開くことはなかったが替わりに居ることを示すようにガタリと揺れる。

「ごめんなさい。ちょっと大人気なかった。。。」

きっと扉に体を凭れているのだろう、が溜息をついたのがはっきり聞えた。


「いや、何も無いならいんだ。君にも理由があったのだろう」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「相手と口論したなど、余程の事があったのかと思ってな」

「変な心配かけてごめんなさい」

「本当なら顔を見て安心したいところだが」

「・・・・・・それは止めた方がいいわ。落ち着くのにもう少し時間欲しいし」

「だったら待つことしよう」


そう言うとバッシュは扉に背を向け凭れかかる。
その振動が反対側のに伝わり嬉しさと申し訳なさで苦笑いを浮かべた。













室内にあるカチカチと規則正しく鳴る時計と相手の存在を扉越しに感じ、
いつも通りの自分に戻れそうだなと思った頃ゆっくりと扉のロックを外した。

「落ち着いたか?」

「ええ。もう大丈夫」

いつもの笑顔でバッシュを見つめる
それにホッとし彼女の艶やかな髪にそっと手を伸ばし撫でる。

「バッシュ、これから予定とかある?」

「いや、何も無いが」

「じゃあ、買い物付き合ってもらえないかしら」

「?―だが、さっき君は」

「途中だったの。それともまた口論しないか心配?」

「いや、そういうわけではないが」

「そうなってもバッシュがいれば大丈夫よ」

「俺が?」

「うん」




言葉を聞いて何だか腑に落ちない点があるのかバッシュは下を向いて考え込む。




「俺が居れば解決するなら何故バルフレアはどうして『あれくらい』と言ったんだろうか・・」

「・・・・・どうしてかしらね」

「君が何に対して無理と言っているのか分からないが、それを俺に頼んだのはどうしてなんだ?」

「それは、バッシュが居れば我慢できるかなと思って」

「我慢するような事をしようとしているのか?」

「我慢というか私の気持ちの問題よ」

「バルフレアが言ったように寛大なれば解決するのか」

「しないと、、、、思うわ」

「どうして―」

「―・・・・・言い切れるのかって?」


突如言葉は遮られ穏やかな空気がいつの間にかあの部屋に居た時のようになっていた。


「理由は一つ。。。。。。それが私にとって、とっても大切でかけがえのないものだからよ」


はバッシュに詰め寄り貴方ならどうなのかと質問をし続ける。


「それを晴れた穏やかな素敵な日に中傷されていたらどう思う?
 気分は滅入るし何よりもそれを優しく論したにも係わらずその人達は対抗してきたの!」


両手を握って拳を作り今にも壁を叩きそうな勢いのをバッシュは肩を掴んでなだめようと微笑む。


「分かったから少し落ち着かないか?」

「分かってない!」



「笑い事じゃないのよ!!!」


笑顔が逆にあだとなり益々ヒートアップするは理解を示さない相手を部屋から追い出そうとその胸をグイと押す。
そしてバッシュを廊下に出し、最後に一言こう言った。


「好きな人の悪口聞いて、はいそうですかって笑っていられる筈ないでしょ?!」




バタンッッ−−−−と。


さっきの何倍も大きな音をさせて閉まった扉。
それを見つめたまましばし呆然とする。

そして徐々に明らかになる意識と今までの言葉にバッシュはその場にしゃがみ込んでしまった。


「―――――・・・・。。。。。。ッ」


目の前の木の扉が何だか城砦にあるような頑丈な鉄の扉に変わってしまったようにも思えてくる。

次に扉が開くのは何時の事になるやら・・・・・・・。


でも今は開かないでいてくれた方がいい。


きっと自分の顔は見るに堪えない程に真っ赤だろうから――-----。